アルカディアでお茶を3



問題はメニューよね。

次の日、私はまたもや、考え事をしながら森を歩いていた。
陛下は、ロザリアさまが貴族の宮廷料理のレシピがあるということで、それを作るそう
だ。


レイチェルも対抗して、豪華なものを!とはりきっていたけど、実際問題、私達はそん
なもの作れるはずもないよ。

そこに、マルセルさまがやってきた。

「アンジェリーク、聞いたよ。お料理作るんだって?頑張ってね!ぼく楽しみにしている
よ」


満面の笑顔で言われて、言葉につまってしまったけど、ふと、ある考えが頭をよぎっ
た。


──分からないなら、聞けばいいんだわ。


「ねえ、マルセルさま、何が食べたいですか?」

「え?そうだなあ、ぼく、甘い物は大好きだよ。デザートにチェリーパイがあるといいな
あ」


「チェリーパイですね、わかりました、マルセルさま」

マルセルさまは、うわーいとよろこんでいる。
これはいい手だわ。そうよ、みんなが好きなものをつくるのよ!

マルセルさまにお礼を言って、(マルセルさまは何故お礼を言われるのかと、きょとん
としてたけど)私は森をかけだした。


その日のうちに、守護聖さま全員の好物と嫌いなものを調べて、意気揚揚とレイチェ
ルにその提案を告げると、グッドアイデアと合意してくれた。


だけど、でも、と言ってレイチェルの顔が曇る

「なに?」

「ここって、時空回路はまだ開いていないでしょう?エルンストが頑張ってくれてるけ
ど、すぐにはいかないわ。どうやって、それぞれの食材を手にいれる?」


私はうっと唸って、考えこんでしまった。
たしかにそうだ。

メモに目を落とすと、守護聖さまの好物は、それぞれ特殊なものばかりでアルカディア
に存在しない食材も多そうだ。



「名案だと思ったのになー」とため息をつくと、レイチェルがはたと目を輝かせた。


「あ、こうすればいいんじゃないかな。似た食材で出来るものを作るの。
どうせ、全部作るのは体力的に無理でしょう」

「そうか、職務の合間に村の人達に聞いて、勉強しよう!」

ここに来てから、変わった食べ物もあったけど、だいたいは多少の違いはあるけど似
通っている。ならば、特殊でも似た食材はありそうだ。


私とレイチェルは俄然、元気がでて、さっそく作るものを検討しはじめた。

それからというもの、私達はすごく忙しくなった。レイチェルは王立研究院に通いつめ
て、アルカディアの生物分布図を作ってもらい、私は欲しい食材がある地域を育成す
る。

その合間に市場に直接出向いて、村の人達に食材の事を聞いたり、たまにはそれを
買って、私邸で料理の勉強をしたりする。



メニューのレシピは、エルンストさんに頼んでどこからか調達してもらったり。

(どうも調達先はチャーリーさんらしいけど)
期限は二週間だから、私達はとにかく走り回っていた。




「よう、アンジェリーク急いでどこ行くんだ?」

爆音と共に声が頭上で響いた。
見上げると、エアバイクにまたがってゼフェルさまが空から降りてくる。
そういえば、アルカディアの廃品でエアバイクを作ったって言ってたっけ。

「ゼフェルさまの所に行こうと思っていたんです」

私の前でエアバイクを止める。
今日はいいお天気で、ゼフェルさまの髪が日に透けて銀色に光っていて、私は一瞬
見とれてしまった。



「あん?何見てんだよ」


わ、気分悪くしちゃったかな。
私はあわてて変な事を口走ってしまった。

「ゼ、ゼフェルさまってキレイですね」

私何言ってるのー、本当はキレイな髪ですねって言いたかったのに〜。
思った通り、ゼフェルさまは、はあ?と言った後、怪訝な顔をしていた。

それから、ったくあのポヨヨンはとか呟いている。
ポヨヨンって私の事かなあ……、とほほ

「んで?」

「は、はい?」

「だから、俺に用だったんだろう?」

「あ、えっと、育成をお願いしたいんです。K地点144に」

ゼフィルさまは、わかったとうなずいて、親指でエアバイクの後ろを指差した。

「乗れよ。お前、かなり疲れてるだろ。息抜きに日向の丘に行こうぜ」

突然の申し出にびっくりしたけど、でもうれしくて、私はにっこり笑って頷いた。


たまに霊震がきても、私はいつの間にか不安ではなくなっていた。

だって、アルカディアってば逞しいんだもの。開かれた土地は生命にあふれていて、
思っていたよりもずっと多くの植物、動物が存在している。
そこにいる人々も活気にあふれていて明るい。
この先に何があっても、私はここを守りたいし、そしてみんなもくじけないに違いない。
そんな風に思えてきたから。
・・・もしかして、陛下はこの事を私に教えたかったのかな?
食べ物って、土地や人に密接に結びついているもの、きっとそう。
うん、そうだよ…。私はうなずきながらちょっと感動してた。

― やっぱ、陛下ってすごいなあ。

いつか私も陛下のような素敵な女性になれるかな?



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