アルカディアでお茶を4


りたいなあ。いつか・・・。

 ううん。いつか、きっとなる。うん、きっと。





そうこうしているうちに、期限がやってきた。
私とレイチェルは前日から下ごしらえをはじめて、ヘトヘトになりながら当日を迎えた。
なにせ、守護聖様をはじめ、教官達の好物も作ったから、その食品数といったら・・・。

あんまりにも、自分たちの手際が悪い事に気がついて、オスカーさまのつてを借りて、
天使の広場の喫茶店から助っ人を呼んだけど、やっぱり出来上がったのは、お食事も
始まる頃だった。


「お天気もよくて、絶好のお食事会日和になったわね。さあ、みんな日ごろの疲れをここ
で発散してもらえるとうれしいわ」


笑顔の陛下が、長い大理石のテーブルに座っているみんなをぐるりと見渡して挨拶をし
はじめた。


テーブルには陛下とロザリアさまが作った宮廷料理がずらりと並べられている。

それはそれは美味しそうで、だけど私は眺めている余裕もなく、自分たちの料理を給仕
の人達に指示して並べていた。

なんたって、それぞれの好物を間違えずに置かなきゃ意味ないからだ。



「おや、お譲ちゃん。これはシュラスコじゃないか。ちゃんと俺の好みを調べてくれたん
だな」


このオスカーさまの台詞で、みんなそれぞれに自分の好物が目の前に置かれているこ
とに気がついたみたい。


「お、これチキンカレーだろ?へへ。上手く出来たか?」

と、うれしそうにお皿からスプーンでカレーを取ろうとして、マルセルさまに、まだダメだ
よーと叱られている。




「これは、なんですか?」

ティムカさまが、ルヴァさまの目の前に置かれている丸い白いものを見て、きょとんとし
ていた。

私が説明をするのに口を開こうとしたら、ルヴァさまが説明をしてくれた。

「これはですね、おにぎりと言って、ある惑星の東の国の食べ物なんですよ。
私はそこの緑茶が好きでしてね。このおにぎりとお茶はとてもよく合うんです。
アンジェリーク、よくこれがわかりましたね」

そう言って、おにぎりをぱくりとルヴァさまは食べられた。

横で、おっさん、ずるいぜー、もう食ってる!と叫ぶゼフェルを横目に、ルヴァさまは目
を白黒させている。


え・・と。な、なんか間違ったかな?私・・・。


「ル、ルヴァさま・・・美味しくありませんでしたか?」

ルヴァさまは、ケホケホ咳き込み、それからお茶をすすった。

「ア、 アンジェリーク・・・。おにぎりの中身は何を?」

「え?えーと。おにぎりの中身は赤い丸いものって資料に書いてあったので、いちごをい
れました。


いちごとゴハンって不思議な感じですが、なんか美味しいですよね」

にっこり言い切った私に、ルヴァさまは首を振って

「違いますよアンジェリーク。それは、うめぼしといって、果実の漬物ですよ」

「えー?そうなんですかあ?知らなかったよね。でも、けっこういけたよね?
私達、味見したもの」とレイチェル。

私も、うんうんとうなずいて

「だって、私もレイチェルも資料見て作ったんです。味は味見したけど、それが本当はど
んな味のものか知らないし、感でこんなかんじかなーって。でも、美味しいですよ!」


美味しいを強調して言ったんだけど、守護聖様たちも教官達も皆、自分の目の前にあ
る食べ物を見つめている。

心なしか、皆さん冷や汗かかれているような・・・。

そこに、陛下のくすくす笑う声が聞こえてきた。

「アンジェリークったら。でも、アイディアはすばらしいわ。
みんなを喜ばせようと頑張ったんですものね。さあ、みんな、食べましょう。
どの食品もここアルカディアでとれたものばかりよ。
みんなの力がなかったら、この料理は出来なかったんですもの。これからこの土地はも
っと活性化するわ。

きっと問題も徐々に解決していくはず。だって、こんなに美味しいものが出来るんだら。
たくさん食べて、英気をやしなってね」


そう陛下がしめくって、ジュリアスさまが乾杯の音頭をとり、食事会がはじまった。

陛下とロザリアさまが作ったものは、それは美味しくて、私とレイチェルはちょっと凹ん
だんだけど、おそるおそる食べた私達のも意外に美味しいと言っていただいて、少しだ
けどほっとした。


「アンジェリーク、チェリーパイはすごく美味しいよ」

マルセルさまが食べながら、にっこり笑う。

「はい。それは自信があります。食べた事ありますから」

そう言うと、どっと笑い声があがった。

その側で、ジュリアスさまが、テリーヌをそなたは食したことは?と聞かれたので、ぶん
ぶんと頭を横に振る。


ジュリアスさまは、うっとうなりながら、それでもぱくりと食べて、美味しいと微笑んでくれ
た。


さわやかな風がふいて、見上げると青い空。

どこまでも青くて、そしてとても綺麗だね。
みんなの笑い声が空にとけていっている。

私達はきっと大丈夫。

大好きな人たちと大好きなこのアルカディアを守るから。
好きって気持ちは、魔法の力だもの。
気持ちは空気にとけて、風にのって広がるよ。
この気持ちが解けて広がって、アルカディアに伝わるといいな。

私はなんだか満ち足りた気分で、守護聖さまたちと笑い合っていた。


―アルカディアに来て75日 まだ色んなことがわかっていない、そんな日の出来事・・・




                           終わり


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