Snow Flake


美花は館の庭から空を見上げていた。

澄み渡り、まるで吸い込まれていきそうな真っ青な空。

「何を、見ている?」

後ろからそっと声がかかる。

振り返るとジュリアスが少し気遣わしげにこちらを伺っていた。

首座の守護聖として常に厳しい態度を崩さぬ彼が、美花の前でだけはまるで普通の青
年様に様々な姿を見せる。

「先ほどから、何を見ていた?」

「空を、見ていました。」

「何が見えるのだ?」

ジュリアスも同じように空を見上げる。

「いいえ。何も。」

「聖地には・・・雪は降らないのですね。」

美花は再び空を仰ぎ見てポツリとつぶやいた。

「あぁ、聖地の気候はすべて女王陛下が管理されているので、特別なことが無い限り、
雪が降ることは無いであろう。

 雪が、どうかしたのか?」

「私の故郷では、冬になると必ず雪が降ったんです。

 私、雪を見るのが大好きでした。

 冬中雪に閉じ込められてしまうので、喜んでばかりもいられませんでしたけどね。」

そう笑う美花の笑顔がとても儚げに見え、ジュリアスは思わすその背中を腕の中に閉じ
込めた。

「そなたは私を恨むか?そなたを家族や故郷から引き離してしまった私を。」

美花は驚いて、ジュリアスを振り向いた。

「いいえ。いいえ、ジュリアス様。

 私はあの時すべてを捨ててジュリアス様について行くと決めたのです。恨むだなん
て、そんなこと絶対にありません。」

「だが、今のそなたはとても寂しそうだ。」

「・・・それは・・・」

「私は4歳で聖地に上がった。

 それゆえ、家族や故郷といったものに対する感慨が良くわからぬ。

 そなたの気持ちを察してやることも出来ぬ。

 このような時、なんと言葉をかけたら良いのかもわからぬ・・・」

その顔と声音があまりにもつらそうで、美花は胸が苦しくなった。

「ジュリアス様。私には、その言葉だけで充分です。

 私はジュリアス様が大好きです。

 そして、そのジュリアス様が、こんなにも私のことを想って下さる。

 そのお気持ちだけで充分です。」

そう言いながら、美花はジュリアスの胸にしがみついた。

言葉以上のものがジュリアスに届くようにと。

そんな美花をジュリアスも愛しそうにぎゅっと抱き締める。

「美花・・・ありがとう。そなたの気持ち、確かに受け取った。

 私はそなたに誓おう。そなたを必ず幸せにすると。

 それが、私が美花に出来る唯一の償いなのだから。

 さぁ、館へ戻るとしよう。

 いつまでもここにいては、そなたが風邪を引いてしまう。」



そんなことから数週間が過ぎたある朝、ジュリアスは朝食の席で美花に告げた。

「美花、今日はそなたと出かけようと思う。」

「でも、お仕事が・・・」

「今日は休暇を取った。どうしてもそなたに見せたいものがあるのでな。」

朝食の後、いまだ不思議そうな顔をする美花を促し、ジュリアスは馬車へと乗りこんだ。

動き出した馬車の窓から見上げる空は、相変わらずの晴天。

ここ聖地では、殆ど1年中このような天気が続いていた。



馬車が止まった場所は、聖地の外れの方にある並木道だった。

「着いたな。どうやら、間に合ったようだ。」

馬車を降りた美花が見上げると、両側に並ぶ木々には一面白い小さな花が咲いてい
た。

「綺麗。こんな時期に咲く花もあるのですね。」

「あぁ、ここ聖地でのみ咲く花だそうだ。古の緑の守護聖が育てたものらしい。」

「ジュリアス様が私に見せてくださりたかったのは、このお花なのですか?」

「うむ、確かにこの花なのだが・・・そろそろか?」

ジュリアスの言葉が合図になったかのように、並木道に一陣の風が通り過ぎた。

と、その風に乗り花びらが一斉にヒラヒラと舞い始める。

それはまるで雪のように、ジュリアスと美花の上に降り注いだ。

「ジュリアス様、これは?!」

「始まったようだな。

 この雪望花は1年に1度、こうやって一斉に花びらを散らすのだそうだ。今日がちょうど
その日。この景色をそなたに見せたかった。」

「そのためにわざわざお休みを?」

「以前、雪を見たがっていたからな。

 そなた一人のために、この聖地に雪を降らせることは出来なかった。

 だからせめても・・・と思い、な。」

そう言ってジュリアスはとても照れくさそうに笑った。

そっと手のひらを差し出すと、その上に花びらが舞い降りる。

溶けて消えることがないので、やはり雪では無いのだと思った。

だが、この聖地には雪より花びらの方が似つかわしいような気がした。

美花はジュリアスの気持ちがとても嬉しかった。

「ジュリアス様、ありがとうございます。

 この気持ち、なんと言葉に表したらいいのか、わかりません。

 だから、今度は私が、ジュリアス様に贈らせてください。

 家族や、その思い出を・・・」

ジュリアスの瞳を真っ直ぐに見つめて告げた。

「あぁ。私もそなたと紡いで行きたい。

 美花と私の永遠の物語を。

 そして、いつの日にか、本物の雪をそなたと眺めながら、今日の日を懐かしく思い出し
てみたい。」ジュリアスは、そんな美花を優しく抱き寄せる。



「美花・・・私の最愛の妻よ。」



降りしきる花びらの中、二人はそっと口付けを交わした。

素敵なお話で、うっとりしましたv

雪国に育った私は、聖地にいるときっとこうだろうなって

思ったからvジュリアス様がやさしくて、ほろりvv

本当にありがと^^すごくうれしかったですv


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