アルカディアでお茶を2


かくして残されたのは、縦じわのジュリアスさまに冷や汗の私達。
(私達というのは、炎、水、夢、地の守護聖さまのこと。闇はめったに顔ださなくて、今日
も欠席)




でもその時、扉が開いて、陛下がロザリアさまとともに入ってきた。

「あら、みんなどうしたの?深刻な顔をして。何か分かったの?」

その言い方が、まるで井戸端会議のようなのんきさで、緊迫していた雰囲気がいっぺん
になくなってしまった。



う〜ん、さすが陛下。
エルンストさんが咳払いをひとつして、まだ何もと答えた。
陛下は、そう、と頷いて、

「焦っても、いい結果は得られないと思うの。それでね、ひとつ提案があるの。
聞いてくれる?」

「あー、提案ですか?」

ルヴァさまが聞くと閣下はにっこり微笑んで、こう仰った。

「あのね、みんな少し疲れているみたいだから、息抜きもまじえてお食事会を開こうと思う
のよ。しかも!」

陛下は人差し指を立てて、

「私とアンジェリークがお料理をつくります」

オリヴィエさまがひゅうと口笛をふく。

「ええー?」
あまりの提案に、私はつい声をあげてしまった。

「大丈夫、あなたのサポートはレイチェルにお願いするわ。私はロザリア、ね?」

隣にいるレイチェルを見ると、頭を横にぶんぶん振っている。
レイチェルはロザリアさまに、

「もし、分からなかったり、悩む事があったら私に言ってちょうだい。そんなに大げさに考
えなくてもいいのよ」



と言われて、あいまいな返事をしている。

う、うそー、私、料理なんてできないよ〜、出来るのはお菓子ぐらいだし。

そこに、陛下の提案を聞いたジュリアスさまが異議を唱えた。
「陛下、お言葉ですが、そのような事をしている暇はないのでは?」

うう、そうだよう。無理だよう。
でも、陛下は首を振り、きっぱりと答えた。

「いいえ!これは実行します。ジュリアス、女王の命令と思ってくれてもいいわ」

そこまで言われて、ジュリアスさまは、うっと唸るだけだった。
「では、日時は二週間後の日曜日。場所は太陽の公園のカフェテラスを借り切りましょ
う。よろしくね、アンジェリーク」



言うだけ言うと、閣下とロザリアさまは王立研究院を出て行った。




「うわー、どうしょう、レイチェル」

「私、料理はからっきしだよ」

それを聞いたオスカーさまが、大丈夫なのかと聞いてきた。

「お嬢ちゃん達の手料理を食べるのはうれしいが、食えるものを作ってくれ<よ」

「オスカー、それはあまりに失礼なのでは?」

リュミエールさまがたしなめるように言ってくれたけど、本当の事です。
食通の守護聖さまが満足できるものなんて作れないよ〜。
おまけにルヴァさまがプレッシャーかけるし。

「たしか、ロザリアはお料理が得意なんですよねえ」

「そうねー、前にご馳走になったけど、おいしかったわん。でも、面白そうじゃなーい。あた
し楽しみ〜」



きゃらきゃら笑うオリヴィエさまを、叱咤するようにするどい声が飛んできた。

「オリヴィエ、まだ会議中だぞ」

それからジュリアスさまは、くるりと私に体をむけて、
「アンジェリーク、陛下のご命令だ。精進するように。皆の者、何か異変があれば、至急
報告願いたい。では、今日はこれにて、解散」


ジュリアスさまは、そう言うと縦じわのまま出て行ってしまった。

ああ〜、なんだか大変な事が増えちゃったよ。

私の顔にも、きっと縦じわができてるに違いない……。






その日の夜、レイチェルが私の部屋にやってきた。
もちろん、お食事会の事でだ。
レイチェルは、ぱふっと私のベッドに腰かけた。私はそのベッドに寝転んでいる。

「うーん、困ったことになっちゃったよね。アンジェリーク、出来そう?私は言われた事は
出来るけど、切るとか泡立てるとか、でも味付けは全然だめ」


私は顔を布団にうずめて考えていた。
陛下は、みんなが疲れていると言っていた。息抜きにって。それは、守護聖さまはもちろ
んだけど、陛下だってそうとうに違いない。

だけど、陛下と私がつくるということは、たぶん、何か意味があるのだろう。
それじゃなきゃ、きっと言わない。

そこまで思って、はたと気が付く。





最近、縦じわのジュリアスさましか見てないな、ゼフェルさまも怒ってばかりだし。

ランディさまも青空のような笑顔が消えている。

クラヴィスさまは……、いつもどおりか。

でも、みんなの笑顔みたいよね。陛下もそうなのかな。
私は口元をきゅっとひきしめて、それから顔をあげてレイチェルを見た。

「レイチェル、私やるよ。陛下も頑張るんだし。私ひとりだけ出来ないなんて言えないよ」

思わず、こぶしをつくってしまう。
レイチェルは一瞬ぽかんとしてたけど、すぐ笑顔になって、

「うん、そうだよ、アンジェリーク!そこが、あなたのいい所だよ。わかった。私にできる事
あったら言って。私も出来ないなんて言わないよ、やるからには最高のものをつくろう!」



一抹の不安はあるけれど、とにかく、私達は前に進むしかないのだ。




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